鳳春紀 『美人婚約者・由美[背徳の魔悦]』
鳳 春紀 美人婚約者・由美[背徳の魔悦]
目 次
第一章 衝迫……懊悩する美人婚約者
第二章 毒牙……網にかかった獲物
第三章 邪心……猛威を振るう性
第四章 淫熱……挑発する絹の下着
第五章 露出……贅沢すぎる痴戯
第六章 魔悦……牡を狂わせる本能
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第一章 衝迫……懊悩する美人婚約者
1
午前四時五十二分。まだ青黒い夜明けの底を、銀色のアルミ車体の始発電車が目覚めた蛇さながらにうねり走っている。都心から西に向かう始発電車の乗客はほんのわずかだ。全車輌を通じて十人にも満たない。車内灯が窓を明るく照らしている。
その第六輌目に乗っているのは、男と女だけだ。女は座席に腰かけたまま眠っている。隣りの男は疲れた目をぼんやりと開けている。ネクタイはよじれて裏返っている。
一見して二十代前半とわかる女は髪が長かった。形のいい唇を薄く開け、長いまつ毛を伏せ、夢すら見ていない様子である。無防備なまどろみでありながら、だらしない雰囲気は少しもなく、女は美しかった。斜めに揃えられた脚の膝も崩れてはいない。
車内点検のために歩いてきた車掌すら、彼女の寝姿をじっと見つめた。制帽の奥の目の輝きに賛嘆の色があった。通り過ぎてからも、車掌は一度振り返り、それから次の車輛へ歩いていった。
車掌が見えなくなってから、滝沢は隣りで眠っている笹本由美をあらためて眺めた。ついさきほどまでの彼女の乱れぶりを男はよく知っていた。なのに、彼女には色疲れといった堕落した雰囲気は微塵も残されていないのである。
まるで早朝出勤のせいで居眠りしてしまっている若い女にしか見えなかった。化粧は完全なのに、あどけなさがどこかにあった。長い髪は片方にさらさらと流れるほどにきれいで、一本一本に磨きぬかれたような艶がある。髪の間からのぞいた片方の耳は、小さめでかわいらしかった。しかし、軟骨のかたどる耳殻の窪みが少し複雑で、それが彼女の腿の間に隠された粘膜の迷宮の複雑さを物語っていた。
まつ毛は上も下も濃く、長かった。眠っていても、瞼の二重の窪みははっきりと残っていた。鼻梁はまっすぐで、鼻先が少し上を向いている。唇は大きくはないが、ぽってりとした厚さがある。上唇がややめくれたようになっている。その間からほんの少しだけ奥の白い歯がのぞいている。口元には常に甘い匂いが漂っている。口紅の香りだけではない。彼女自身の息が甘い匂いを持っているのだ。
顎は小さめだ。とがっていて、先端を口の中に入れてしまいたいと思わせる風情がある。そこから襟元はえぐれるように深く、白い首は長かった。首から青いスーツの胸元まで露出している肌は、なだらかな雪のスロープのようだった。いや、雪と形容するには、そのあたりに漂う匂いはあまりに女のものだった。甘い匂いの霧が立ち込めている。
滝沢は誘われるように、鼻先を笹本由美の胸元へと近づけた。そこは、どんな男もあらがえない匂いの花園だった。車輛には他に誰もいない。彼は舌を出して、彼女の胸肌をねっとり舐め上げた。
由美はうっすらと目を開けた。唾液で濡れた胸元のうぶ毛がきらきらと輝いている。
「あ、なあに?」
由美は溶けるような声を出した。
「……何でもない。寝てていいよ」
滝沢はそう言うと、再び胸元に顔を伏せた。
「だ、だめ」
「感じるんだね?」
「……見られるわ」
「他には誰もいないぜ」
「あ、でも」
滝沢は、彼女の青いスーツの合わせ目まで舌をおろしていった。ナメクジが這ったように、唾液の道が引かれた。胸元の肌は途中から乳房のふくらみを予感させるように柔らかくなった。そこに至ると、甘い匂いに湿り気が混じってくる。
彼は上衣の合わせ目に右手を差し入れた。指先をくねらせて、ピンクのブラジャーの下にくぐらせる。
笹本由美は細い体なのに、乳房は量感があった。しかも、高くそびえている。柔らかいばかりではなく、適度な硬ささえ併せ持っている。彼は乳房を絞るように強く握った。
「……あ、そんな。痛い」
由美は息を吹きかけて囁いた。だが、言葉を裏切るように、長いまつ毛を持った目は潤んでいた。滝沢は彼女の顔の変化を意地悪い眼差しで見つめ、襟元の中に差し入れた手の指で乳首を強くつまんだ。桃のもっとも濃い肌色に似た乳首はねじれ、しかし、いよいよ膨らんだ。
その膨らみを感じて、由美は身をよじった。恥ずかしくて、淫らで、背徳的で、ところが、欲しくてたまらなかったあの強烈な感覚がそこから湧いてきていた。彼女のウエストはますます細くくびれ、半ば開いた口の上唇と下唇の間に粘っこい唾液が糸を引いた。と同時に甘い口紅の匂いが、そのあたりに
靄
もや
のように漂った。
滝沢は、由美のそんな変化を憎んだ。心情からではなく、肉の刺激から淫らになれる生理的、身体的反応がこの女に色濃くあることを憎んだ。いや、それは憎悪よりも、ずっと嫉妬に近い感情だった。だから、滝沢は由美が得ようとしている肉の甘さの加減を自分でコントロールしたくなって、彼女の乳房のひとつを外に出そうとした。
由美には、彼の意志がわかった。こんな場所で、と思った。この車輌には自分たちの他に誰も乗っていないとはいえ、次の駅で誰かが不意に乗り込んでくる可能性があった。始発電車の中で男にもてあそばれ、乳房をさらけ出している女を見て、他人はどう思うだろう。いや、他人とは限らない。知人が、自分を知っている誰かが乗ってくるかもしれなかった。すると、生まれるのは恥辱だけではない。だから、滝沢の意志を拒否しなければならない。ブラジャーの間に割り込んでいる手を抜かなければならない。
しかし、彼の手をはらいのけようとする由美の手の力はあまりにも弱かった。そこに、本気さはなかった。むしろ、甘える仔猫のような声が喉から洩れ出した。電車の振動と騒音の中でも、その声はよく通った。
青い上着のボタンが不意に外れ、由美の左の乳房が外にこぼれ出た。
「……あん、だめなのに」
〜〜『美人婚約者・由美[背徳の魔悦]』(鳳春紀)〜〜
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