由紀かほる 薔薇と制服(後編)
目 次
8th・step
9th・step
10th・step
11th・step
12th・step
13th・step
Final・step
(C)Kaoru Yuki
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8th・step
1
まだ暖かい夕陽のさし込む放課後の廊下で、青原は窓際に立って帰宅していく女子生徒たちの姿をぼんやりと眺めていた。
つい先ほどまで、理沙と行っていたプレイの余韻が、ズーンとした痺れとともに五体に残っていた。
三時限の最中、男子トイレに理沙を呼び出したあと、青原は全裸に首環姿のボディを背後から貫いていた。
昨晩、一睡もせずに犯し続け、ついに二人とも昇りつめずにおいたあとの性交である。
前戯など不要だった。いや、男子トイレで自ら服を脱ぎ、首環姿で待っていた、そのことがつまり前戯だった。
押し入った瞬間、ドロンドロンになった理沙のヒップの中で、青原は意識を失いかけていた。
丘に打ち上げられた魚が、久しぶりに海に帰されたような感じだった。
理沙も全身をおののかせていた。滑らかな肌が背中からうなじまで、鮮やかに燃え出していくのがわかった。
そこでも、青原はとどめの一撃を送り込まなかった。
今、裂けていきそうな灼熱のシャフトを、子宮の奥に打ちつければ間違いなく歓喜のシャワーが二人の頭上に舞い降りてくる。
圧倒的な、どの性交も及ばぬ歓喜の瞬間がやってくる。
わかっていてしかし、青原は自制していた。狂おしかった。切なかった。が、理沙の燃え方を眼の当たりにすると、さらなる欲望が黒々とした焔を噴き上げてくるのだった。
もっと狂わせたかった。徹底的に官能の底なし沼に突き落としてやりたかった。そして、自分もまた――。
だから、青原は押し入ったまま動かなかった。ストロークを一度でも行ったら、爆発が起きかねない状況だった。
結局、終業の一〇分前まで性交を行い、引き抜いた青原はリュックからロープを取り出した。
「続きは放課後の、査問会のあとにしよう。それまでこいつを着けて授業を行うんだ」
全裸のボディに、ロープをギシギシと喰い込ませた。
一日置きのプレイのおかげで、青原の緊縛の技術も確実に上達していた。
乳房の上下、股間と、定番の型にロープを巻きつかせ、最後にせり出した乳房の中心に、乳首を押し隠すように、さらに一本喰い込ませてやった。
青原のいる廊下の、すぐ横の会議室では査問会が開かれていた。
議事の一つに、青原の京都における〃援交疑惑〃が上がっているはずだった。
青原はしかし、安心していた。査問会のメンバーに理沙と宮公路も入っているとわかっていたからだった。
理沙はもちろんだが、今となっては宮公路も青原の弁護にまわるに違いなかった。共に弱味を握られている仲間だった。
「先生」
廊下に女の若々しい声がして、青原はふり返った。
ドアから、理沙が貌だけ出していた。そのスーツの下には、まだロープがギッチリと喰い込んでいるのだ。
切れ長の眼が濡れたように光っているのを見れば、わざわざミニ・スカートを捲ってたしかめる必要もなかった。
青原はそのときのことを想像して、だらしなく口元を緩めながらドアに近づいた。
が、理沙の表情は堅かった。他の教師を意識して取りつくろっている、いつものそれとも明らかに違っていた。
青原ははじめて、事態の深刻さに気づいた。
「まずいのかい?」
小声で訊ねたものの、理沙は瞼を伏せただけで何も言わずに、ドアを開いて迎え入れた。
先日の事前の査問会にもいた主任の三塚涼子の他、中央には教頭である秋島友江、そしてその横に学長の須磨綾華が堂々と鎮座していた。
部屋に入るなり、青原は張りつめた空気の、堅苦しい重圧にひるみかけていた。
後ろでカチリとドアが閉められると、まるで取調室に閉じ込められたような不安に襲われはじめた。
痩せぎすの、真横に張り出したメガネを、絵に描いたようなイヤラしさでかけた教頭の姿はともかく、学長とは年に何度も貌を合わせたことはなかった。
ましてや、面と向かい合って言葉を交わしたのは、この学園に赴任したとき以来、一度もなかった。
すでに六〇を越えたと思われる学長は、それでもショート・ヘアをオール・バック風にセットし、大きく見開いた眼で鋭く青原を見つめてきた。
肉付きのよい貌立ちは、鼻も大きく、口もしっかりと厚く、真横に拡がっていた。
これが男なら、まさに大企業の社長としては貫禄充分の面構えと言えた。
実際、須磨綾華を一見して男ではないと判断させるものは、その大きな唇に塗られたギラギラと光る口紅だった。
目鼻立ちが醜いのではない。いや、むしろ端整である。が、六〇になる貌つきには、その肩書きと内面の姿がはっきりと滲み出ているのだった。
これに比べれば、U字型の机の一番右端に、小さくなって座る宮公路など、ごく小市民的で可愛らしい存在にさえ見えた。
「話は聞きましたよ」
綾華のややかすれた、しかしどこか頭ごなしの声が部屋に響きわたった。
「あなた、援助交際したね」
青原は息を止めて、すくみ上がった。声が出ずに、全身が慄えだしていった。
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