川口青樹 お尻の天使・美女ナース
目 次
お尻の天使・美女ナース
アナルパート・香代
(C)Seijyu Kawaguchi
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お尻の天使・美女ナース
「ううーっ」
集中治療室からの呻き声に香織は、耳を塞いだ。
「ご臨終です」
「わっ」
医師のひと言に家族が遺体に泣き崩れた。
まだ年齢が二十五歳にもかかわらず、その青年の一生は終わったのだ。
ここは難病を抱える人たちの病院である。
いくらこのような光景が日常茶飯事であるとは言え、新米の看護婦の香織には耐えられなかった。
今日も一人、明日は何人がその生涯を終えてしまうのだろう。
夜勤明けはいつも体が辛い。
ただでさえ新人の香織は、昨夜の患者のことを思うとそれだけで足取りが重かった。
そして途中、患者用のトイレの前を通りかかると、何やら荒い息遣いが聞こえたので立ち止まった。
「ハッ、ハッ……」
「大丈夫ですかー」
香織が急いでそのトイレのドアに手を掛けると開いてしまい、中には若い男がパンツを下ろしたまま、自分のペニスをつかんで洋式トイレに座っていた。
「あっ、ごめんなさい」
香織はドアを逆に引いて、背中をドアにつけたまま詫びようとした。
「イッ、イエ」
男の方がドギマギしているようだった。
香織は気まずい気分のまま、足音をひそませるようにして、そこを立ち去った。
(あービックリした。そうなの、あれが男の人の……)
改めて思い浮かべるとこっちの顔が赤くなってしまう。
「あらー、香織ちゃん、大丈夫。何だか妙に顔が赤いけど」
そばを通りかかった先輩の主任看護婦の櫻井が声をかけた。
香織にとって、櫻井は何かと面倒を見てくれる頼り甲斐のある先輩だった。
「えっ、あの、別になんでもないですけど」
「そうかしら、……何か困ったことがあればいつでも相談にのるわよ」
身長は香織と同じぐらいだが、キリッとした意志の強そうな顔立ちと、二十八歳を女盛りとするかのような経験と自信に満ち溢れた白衣姿は、香織の憧れでもあった。
「はあ、あのー、実はちょっとここでは話しにくいことなんですが……」
「そう、わかったわ。私、今日は夕方までだから六時に私の部屋へいらっしゃい」
「はい、お願いします」
そう言うと、香織は足早に看護婦寮の方へ向かっていた。
櫻井はその白衣から伸びている香織の清楚な足を見ながら微笑んでいた。
「櫻井さん、今晩は」
「あーら、いらっしゃい。お入りなさい。どう少しは眠れたの」
「ええ。すみません、お疲れのところ」
しかし、香織の目は少し充血していて、明らかに寝不足のようすだった。
「いいのよ、正直に言って。昨夜のように担当の方が亡くなられた時って、疲れているはずなのに眠れないでしょ。私にも経験があるわ」
「ええっ、櫻井さんが……」
香織には、普段のキリッとした主任看護婦からは想像がつかなかった。
でも尊敬する先輩の別の一面を見たようで、また少し親しみが湧いたのだった。
「あーら、私だって人間よ。それで昼間は何だったの」
「ええ、実はそのー……」
香織はトイレでの出来事をたどたどしく語った。
「そうだったの。で、貴方はそのことが何だったのかわかったのね」
「ハイ、あの。あれって男の人のオッ、オナニーなんでしょ。きゃっ、恥ずかしいこと言っちゃった」
「正確にはマスターベーションね。人間には誰しも起きる行動だわ」
頭を下に向けていた香織は、平然と言いのける櫻井の顔を見上げた。
「そんな驚かないで。でもまあ、しょうがないわね」
「でも、どうしてあんなところでするんでしょ」
「じゃあ、他にどこでするの。いつ看護婦が来るかもしれない自分の部屋、それとも屋上の青空の下かしら。中庭の茂みの陰も一興ね」
確かにそう言われると返す言葉がなかった。
「いいこと、貴方も知っての通りこの病棟は若い男性が多いわね。確かに難病だけど、大部分の人が発作が起きない限り普通の生活に近いわ。かと言って、社会での通常生活に戻ると発作が起きた時に手遅れになる可能性が高いという矛盾の中で闘病しているのよ。お気の毒なことに八〇%以上は治療の効果がハッキリしない若い人たちだわ。好きな人とSEXをしたいと思っても先のことを考えるとできない人たちなのよ」
櫻井の真剣な話の中で突然、SEXと言う言葉が出てきて香織は驚いてしまった。
「だから大抵の看護婦は見て見ぬ振りをしているのよ」
「わかりました。明日あの患者さんにお詫びします」
「あら、それじゃ向こうが困るわ。いいこと、顔を合わせたら無言でいいから笑顔で応えなさい。そうすると貴方が好意的に思っていると思うわよ」
「はい、よくわかりました。わあ、よかった。やっぱり先輩に話してスッキリしたわ」
「そう……。実はね、私も話があるの」
「あの、何ですか」
たった今、それまで以上の信頼を感じた先輩から出た次の言葉は信じられないものだった。
「あの人たちの力にならない。ううん、力ったって医学ではなく精神的・肉体的な支えって言うことよ」
「そんなー、私にできるかしら」
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