由紀かほる 美肉の虜囚
目 次
一、甘美な性奴
二、美肉の虜囚
三、絶頂仮面
四、凌辱者
五、女神の猟人
六、熟れた獲物
七、美人秘書に捧げるボレロ
八、キャリアウーマン深夜便
(C)Kaoru Yuki
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一、甘美な性奴
1
外科の簡単な手術を終えると、上杉涼香は自室に戻って机からコピーした二つのカルテを封筒に入れた。その一つを、鍵のかかる引出しにしまい込んだ。
ドアがノックされたのは、ちょうどそのときだった。
「失礼します」
入ってきたのは、今春からインターンとして涼香が面倒を見ている高野真澄だった。
まだ大学を出たばかりだが、半年間涼香の元に仕えてきたせいか、白衣姿も似合うようになっていた。
もともと背も高く、整った華やかな貌立ちは、外科志望という男勝りの資質と上手くバランスがとれ、将来の雄姿を早くも予感させた。
それもしかし、涼香の前だとさすがにかすみがちになった。
実力、実績、ポジション等々、病院で着実に身につけた涼香は、普段の言動からその重みが違っていた。
それでいて、決して尊大ぶった態度を示さずに、常に全力を注いで医者という仕事に立ち向かう姿が、看護婦の間でも敬意を抱かれる要因になっていた。実際、多くのインターンたちの目標であり、憧れでもあった。
が、何よりも涼香を輝かせていたのは、その恵まれた容姿のせいに違いなかった。一六四センチの肢体はモデル貌負けのプロポーションを誇り、それは切れ長の眼とノーブルな鼻梁の知的で気品溢れる貌立ちと最高のコンビネーションに彩られていた。
今年三十二歳になっても、その美しさは衰えるどころか、内面の充実ぶりに比例して、ますます艶熟していくように見えた。
「これ、あなたにも預けておくわ」
涼香はいつになく硬い表情で、カルテのコピーの入った封筒を真澄にさし出した。
「はい。じゃあ、やるんですね、本当に」
真澄の貌も真剣だった。
「ええ。内部告発なんて嫌いだけど、仕方がないわ。病院にとっては不名誉なことでも、医療ミスを隠し続けるわけにはいかないもの。あなたも、よく教えてくれたわ」
「いえ……怖かったんですけど、先生ならと思って」
師を敬う思いが、その眼差しに溢れていた。
「大丈夫。もし、上が動かないときは、わたくしの知り合いのジャーナリストに話をしておくから。カルテのコピーはそのときのためのものよ」
知性のオブラートに包まれた横貌には、頼もしいばかりの正義感と揺るぎない自信が溢れていた。
十分後、ハイヒール・パンプスの踵を鳴らして、涼香は地下駐車場の愛車に近づいていった。
ドアを開け、ミニから伸びる脚をきれいに畳んで乗り込み、エンジンをかける。
と、窓ガラスをノックする者がいた。インターンの宇田川淳二だった。
「何かしら」
窓を開けて貌を見上げた。陽灼けした貌が丸い縁なしメガネの向こうで、奇妙に引きつってみえた。
「実は、先生、カルテを――」
「え?」
声が小さくてよく聴こえなかった。いったんエンジンを切ろうとしたその瞬間、いきなり口元を背後から塞がれた。と、次の刹那、首すじにチクリとした痛みが走った。
「!」
涼香はシートの上で、猛然と身をよじった。
「ウウッ!」
その隙にドアが開けられ、涼香を隣りのシートに押しのけるようにして、宇田川が乗り込んできた。
バック・ミラーに一瞬、口を塞いでくる男の貌が映った。
〃大門慎也!〃
今回の医療ミスを起こした整形外科の医師だった。
さらに叫ぼうとしたが、急激に手脚の動きが鈍くなって、間もなく涼香は意識を失っていった。
2
「薬で眼を覚まさせてやれ」
遠くで大門らしい男の声がした。
腕に針を打たれ、やがて涼香は不快な眠りから眼を覚ました。
そこは地下室なのか、窓一つない二十畳ほどの、レンガ造りの部屋だった。
床に横座りになった涼香の躯は上体を起こしていた。天井から垂れる鎖と、その尖端のワイヤーの入った革製の手枷が、右手首を吊り上げているためだった。
それを見るなり、涼香は右腕の痺れるような痛みに低く呻いた。あわてて、左手を伸ばして鎖を把んで、右腕の負担を軽くしないではいられなかった。
「気がついたな、上杉先生」
ソファに座っていた大門が、タバコを咥えて近づいてきた。すぐ脇には注射器を持った宇田川が立っている。
さらに、ソファでは小指を立てて気障にコーヒーを呑んでいる弁護士の時増英吾の姿が見えた。
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