由紀かほる 禁断のエチュード
目 次
禁断のエチュード
琥珀夫人
三回イカせて
強姦魔と人妻
脅しの悦虐
背徳の肉交
仮面の恥戯
荒ぶる仕打ち
(C)Kaoru Yuki
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禁断のエチュード
1
ショパンのエチュードの五番が、つたない指使いながら、ピアノ教室となった離れからかすかに洩れていた。
午後三時前。白のミニのワンピースを着た楠野理佳子は、小学三年生の女生徒の演奏が終るのを待って、椅子から立ち上がった。
「だいぶ上手になったわね。来週もう一度おさらいしてから、次へ進みましょう。今日はここまでにしましょうね」
「ハイ、先生」
丁寧におじぎをした生徒を、玄関の門まで送ってから、理佳子は母屋へ戻った。
二階にある子供部屋では、小学四年になる息子の英治が、家庭教師につき添われて勉強中だった。
夫は経済産業省に勤めるキャリアで、学校の成績には厳しかった。もともと実家の方がひどくエリート意識が強く、その点では音大しか出ていない理佳子には、違和感があった。
とはいえ、やはり息子には勝ち組に入って欲しいという気持ちが強かった。
キッチンで二人に出すお茶とお菓子の用意をしているときだった。何か、妙な気配を感じて理佳子はふり返った。
すぐ後ろに、家庭教師の宇野友也がヌッと丸い貌を突き出して立っていた。
ギクリとして、理佳子は息を呑んだ。もともと小太りで、黒縁の横長のメガネを、小さい鼻に重そうにかけている友也は、いかにもオタク系で、表情もとぼしかった。
それでも勉強だけはできるらしく、一流の国立大学の二年生で、親も大手M銀行の重役だった。
「ど、どうなさったの、友也クン。今、お茶を持って行こうかって――」
メガネの奥の、友也の射るような暗い眼差しに、理佳子は次第に声を落としていった。
「な、何かご用かしら?」
妙な威圧感を覚えて、理佳子は唇を舐めた。
「今日はラバーのバイブ付きパンティ穿いてんスか、おばさん」
「―――」
理佳子は口を開けたまま、友也を見やった。聴き違いだろうと思った。いや、友也の口調はモゴモゴしていて、ひどくわかりにくかった。
「それともTバックですか」
「ええっ?」
「でも、やっぱ、バイブレーターが好きなんスよね」
今度こそ間違いなかった。
「な、な、何言ってるの」
答えながら、理佳子は貌中を真っ赤に染め上げていった。
「とぼけんスか、おばさん」
「な、何ですの……お、怒りますよ」
大学生の友也よりも、年はひとまわりほど上になる。すでに主婦となり、息子もいる理佳子にしてみれば、今どきの大学生など子供も同然だった。
が、今この瞬間、圧倒されているのは理佳子の方だった。
「じゃあ、これはいったい誰のですか」
友也は後ろ手に隠していた黒いラバー製のバイブ付きパンティを、スッと突き出してみせた。
「あ――」
理佳子は射抜かれたようにすくみ上がった。
「ねえ、教えてよ、おばさん。押し入れにある箪笥の一番奥のバッグに入っていたんスよ」
友也の声が高くなってくる。
「ど、どうして、そんなところを見たの。勝手に他人の家を探したりしていいと思ってるの」
「英治クンがむかし遊んだゲームがないかって言うから、あちこち探してたら、こいつが出てきたんだよ」
理佳子の反撃も、友也の説明にあえなく退けられた。
「バラすよ」
「え?」
「みんなにバラしちゃうよ。明日は高村さんのところの家庭教師に行く日だから、あそこのおばさんや、雄太クンにも話してやろうかな」
「どうして、そんなことするの」
「バラされたくないかい? それならこいつを穿いて見せるんだ」
「!」
「今すぐ、ここでだよ」
友也はたたみかけてきた。
「どうしたのさ。イヤならいいよ。英治にも見せちゃうからね」
「うっ、待ってっ!」
キッチンを去ろうとする友也に、理佳子はたまらず声をかけていた。
2
理佳子は白いワンピースの裾をスルスルとたくし上げた。後ろを向きたかったが、友也はそれを許さなかった。
すでにバイブ付きのラバー・パンティを見つけた時点で、若い欲情は完全に焔を噴き上げていたのに違いない。理佳子の言うことに耳を貸す様子はまるでなかった。
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