由紀かほる 『美人デザイナー 麗女狩り』
由紀かほる 美人デザイナー 麗女狩り
目 次
第一章 未知の喜悦
第二章 屈辱のサーヴィス
第三章 盗み撮り
第四章
穢
けが
されたオフィス
第五章 蹂躙電車
第六章 肉欲の海
第七章 牝犬の二つの穴
第八章 奥深い洞窟
(C)Kaoru Yuki
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第一章 未知の喜悦
1
男に二の腕を掴まれて、
甲
こう
賀
が
真
ま
世
よ
はホテルの一階にある駐車場の隅へ連れ込まれた。街の中心から歩いて数分の場所だが、夜十二時を回ると、人通りは寂しいほど途絶えていた。ときおり、荒々しく走る車のヘッドライトが、ほの暗い駐車場の中を照らし出すだけだった。
六月でも風は冷たい。人口が年々減って、二十万人になった北の街の
寂
せき
寥
りょう
感
かん
が漂っている。
男はコンクリートの壁に真世の背を押しつけると、腰を抱いて、いきなり唇を奪ってきた。
「ンンッ」
小さく
呻
うめ
いて、真世は身をよじった。が、スポーツマンらしい男の腕は、圧倒的な力で真世を押し込んできた。
当然、抵抗すべきだった。男とは会ったばかりだった。名前も知らなかった。正確に言うと、今日の午前中、釧路湿原にある展望台で会っていた。
パラパラとしかいない客たちの中で、お互いが一人旅らしいことは一目でわかった。というより、垢抜けた容姿が自然と浮いている感じがしていた。
言葉を短く交わしたが、それは都会人らしい節度を持った範囲だったので、内容はすぐに忘れた。悪い印象は持たなかったが、それ以上のものでもなかった。
男と再会したのは、夜のバーのカウンターでだった。男は真世を見つけると、まっすぐに近づいて、サングラスを前に置いた。真世が展望台の椅子に置き忘れたものだった。
そのままごく自然に隣のスツールに座って、シーバスのロックを飲み始めた。
「実は来週、婚約することになっているんです」
会話が途切れたところで、男はポツリと言った。別にノロケている様子でもなければ、悔やんでいる風でもなかった。
真世にはさほど興味のない話だった。今年で二十六歳になるが、急いで結婚したいとは思っていない。
自分にふさわしい男とめぐり会っていないということもあるが、それ以上に今は宝石デザインの仕事に興味があった。
三年前まで、真世は日本でも屈指のデザイナーの会社で、デザイナーの卵として働いていた。
真世に大きな転機が訪れたのは、師であるデザイナーが急死したときだった。看板を失って会社は揺れた。跡目争い、昇進争い等が各部署で繰り広げられ、ある者は勝ち残り、ある者は敗者となった。
あまりに醜い足の引っぱり合いに嫌気がさして、真世は早々に退社した。いや、真世にも野心はあった。この世界でトップに立ちたいという気持ちは誰にも負けなかった。またその才能にも自信を持っていた。
ハッキリ言えば会社の未来に見切りをつけたのだった。この世界にも、年功序列のようなところが多分に残っていた。
退社を考えているときに、独立の話を持ちかけられた。営業畑にいた
岩
いわ
淵
ぶち
由
ゆ
利
り
夫
お
が二人で会社を興そうと声をかけてきた。
岩淵は二十八歳で、営業マンとしてはやり手だということは知っていた。なかなかの美男子で、女子社員の人気も高かった。
真世の目から見ると、悪くはないがプライベートで付き合ってみたいとまで思わない、といった程度だった。
テカテカと光る七三に分けた髪と、切れ長の目の冷たさが、どこか油断ならない感じがしていた。
逆に言えば、プライベートな問題を仕事には決して持ち込んだりはしないだけに、信用はできた。実際、話をすれば頭の切れることはすぐにわかった。常に情よりも知の方を優先する男だった。
真世には岩淵が恋をする姿が到底想像つかなかった。
その岩淵が持ちかけてきた話だ。充分に勝算のあるビジネスには違いないと思った。
実力があっても、それを評価してくれる者がいなければただの過信でしかない。しかし、過信があってこそ、野心が実現できるとも言える。
〜〜『美人デザイナー 麗女狩り』(由紀かほる)〜〜
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