官能小説販売サイト 由紀かほる 『フリーク・アウト!』
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由紀かほる   フリーク・アウト!

目 次
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(C)Kaoru Yuki

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 着替えの入ったカートを引いて、かのは成田空港のロビーをゆったりとした足どりで歩いていった。
 ロンドンからのフライトを終えて、疲れを隠せないでいる同僚や部下のスチュワーデスの中で、美知世の姿だけはさっそうとしていた。
 背すじはピンと伸び、表情は冷たいほどに引き締まっている。
 すでにスチュワーデス・パーサーの肩書きも持ち、ベテラン組の仲間入りを果たしているが、体力や気力に関しては、年下の者に負けない自信があった。
 天職なのだと、美知世自身思っていた。容姿の美しさや知性の高さはもちろんだが、感性がこの仕事に向いているのだ。
 だから、たまたまフライトが一週間以上も空くと、かえってストレスが溜まった。
 スチュワーデスの制服を着て、乗客たちに接するのが好きなのだ。同時に、部下を厳しく叱りつけるのも、美知世には何よりもたのしかった。
 いや、美知世自身は決して厳しいとは思っていない。当たり前のことを、当たり前に教えているだけのことだった。
 近ごろの新人になればなるほど、これでもスチュワーデスかと目を疑うような、IQの低いやからが多かった。教官がサジを投げるような相手に対しても、美知世は容赦しなかった。
 そのせいで、評判がよくないのも承知していた。すでに三十歳を迎え、イタリアン・レストランを経営する夫がいた。早く引退しろと陰口を叩かれてもいた。
 が、辞める気など、美知世にはさらさらなかった。
 経済的な理由ではない。海外を飛びまわり、頭の悪い部下をイビリ倒す――こんな愉快な仕事を手放せるはずがないのである。
 解散して、クルーと別れた美知世は、足早にトイレに向かった。深夜のせいで、さすがに中は静かだった。
 個室に入って、初めて美知世は緊張を解いた。疲れていないはずがなかった。ただ、それを乗客やクルーに見せることが、イヤだった。
 それだけに、一人になるとドッと疲労感が襲ってきた。それはだが、心地好い虚脱感でもあった。
 今回のフライトは特に、生理とぶつかっただけに、さすがにきつかった。成田に着く頃、ちょうど終わったのは皮肉だが、その分体調は自分でも驚くほどよかった。
 横浜にいる夫のもとへは、フライトを終えた日は、時間によっては帰らないことが多かった。近くのホテルで一泊するのが、習慣になっていた。
 今夜はしかし、眠るには元気がよすぎた。たまには東京で羽根を伸ばそう――個室を出た美知世は、化粧道具をとり出して鏡をのぞき込んだ。
 元気とはいえ、目には少なからず疲れが出ている。
 口紅を塗ろうと、顔を鏡に近づけたとき、美知世は一人の女が右手から鏡の中にスッと入ってくるのに気づいた。
 黒のセミ・タートルと黒い革のパンツに、G・ジャンを着た女は、背後に立って美知世の方を見つめてきた。
 長い髪を後ろで束ねた、スラリとした長身は、別の会社のクルーだろうか。少なくとも同じ会社に、これほどの美しさをたたえたデスはいないはずだ。
 が、女にはスチュワーデスが持つ特有の雰囲気がない。華やかではあるのに、タレントや女優とも明らかに違う。
 知らぬ間に美知世は、目の焦点を自分の唇から背後の女へと移していた。
 片手を腰にあてがって、じっと見つめてくるまなしは、すでに礼儀を欠いたところまで来ている。
 ただ、不思議なことに、そのしつけな視線を、美知世自身は少しも不快に感じていなかった。むしろ、包まれていくような温かささえ感じはじめていた。
 
 
 
 
〜〜『フリーク・アウト!』(由紀かほる)〜〜
 
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