由紀かほる 『[女潜入捜査官]レディ・ドッグ2』
由紀かほる [女潜入捜査官]レディ・ドッグ2
目 次
1st stage 真珠
2nd stage 打擲
3rd stage 喪失
4th stage 崩壊
5th stage 彷徨
6th stage 奔流
7th stage 破戒
(C)Kaoru Yuki
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1st stage 真珠
1
拓
たく
也
や
はブラの肩紐をずらしていく
絹
きぬ
子
こ
の表情を、脇に立って見つめていた。
実は店に通った理由が自分でもはっきりとわからずにいた。性格は良さそうだし、身体のラインは申し分なかった。
華
か
音
のん
に比べれば
歳
とし
を喰ってたし、美人でもない。だから簡単に
堕
お
とせると思っていた。
ガードは思ったより堅かった。もちろん、自信はあった。それから意地も。この程度の女をモノにできなかったというのは、仲間の手前カッコ悪すぎた。
が、もっと別の理由があることに、拓也は気がついていた。
華音よりも四、五歳年長というだけで、女の持つ顔や肉体の表情がこれほど違うのかと、
瞠
どう
目
もく
しないではいられなかった。女は若い方がいいに決まってる。実際、華音とルミは二十歳を過ぎたばかりだし他の二人は十五歳だった。が、比べてみればその四人には絹子のような表情がなかった。
それが天性のものなのか、人生経験からくるものなのかはわからない。が、女の表情というものが、不思議なほど魅力を放つものであることだけは間違いなかった。
それは十代にはない一つの世界、大人の女としての世界を悩ましく、艶やかに花開かせているように思われた。
そう思ったとたん、拓也は絹子の内心の
苦
く
悶
もん
が理解できた。
八対一だ。従うのは当然だった。が、命じられるままに、全員の前で一人服を脱ぐまでには、計り知れない重い決断がなされたに違いないのだ。いや、
強
こわ
張
ば
ったままの凍りついた表情の乏しさこそが、かえって絹子の苦しみと悲しみの深さを浮き彫りにさせていると言えた。
ホックを外す指先の慄えは、自制と意志のわずかな
綻
ほころ
びだった。
錯覚でないのは、他の連中の押し黙った姿を見れば明らかだった。十五歳の
真
ま
利
り
と
果
か
穂
ほ
はちょっと小馬鹿にしながらも、好奇心をムキ出しにして見入っていた。
ルミと
鞭
むち
を使う華音は冷ややかな中に、
蔑
さげす
みと同時に抑え切れぬ
嗜
し
虐
ぎゃく
の、残忍な
焔
ほのお
をその眼差しに
湛
たた
えている。
が、何よりもこの緊迫した空気の、濃密な官能性と嗜虐性に圧倒されているのは、カエル顔の
伸
しん
吾
ご
と細眼のテルヲ、そして十七歳になったばかりの
満
ミ
知
ッ
夫
チ
だった。
自分も含めて、全員がセックスが好きだった。いや、そもそも好きとか嫌いとかいう概念自体がなかった。あるのは半ば義務のような、獣と同じ本能のみだった。
今しかし、全員が絹子の感情を押し殺す姿によって、セックスへ至る官能美の新たな刺激と魅力を目の当たりにしていた。
「うっ、すげえ」
伸吾が小さく声をあげた。
ブラの下から現われた二つの乳房こそは、十代の少年の観念をあっさりと覆すのに充分だった。ピーンとたるむことのない、若々しい生命力に満ちた
瑞
みず
々
みず
しさが、この大人の女の身体にも存在しているという揺るぎない事実。それでいて豊かに弾けたふくらみは、その形の美しさと
穢
けが
れない輝きによる、たしかな自信と誇りを備えているのだった。
真利や果穂のそれがコピーされた、大量生産されたものなら、絹子のバストは美術館の一番奥に、高価な額縁に入れられて鎮座する歴史的名画だった。
右頬から垂れたロングの髪先は乳房のスロープをやわらかく
刷
は
いて、乳首は実に自然な色合いの
蕾
つぼみ
をしっかりと仰向かせていた。絹子ははじめて
躊躇
ためら
いを見せて、片手で乳房の下端を覆うようにもう一方の二の腕を掴んだ。
「何隠してんだよ」
「いい歳して羞ずかしがってんじゃねえよ」
鞭の音に続いて、ルミがドスの利いた声を浴びせかける。
「ちゃんと顔を上げろ」
絹子は小さく息を吸い込んで、頬の髪を払うように正面を見やった。
〜〜『[女潜入捜査官]レディ・ドッグ2』(由紀かほる)〜〜
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