由紀かほる 『[女潜入捜査官]レディ・ドッグ5』
由紀かほる [女潜入捜査官]レディ・ドッグ5
目 次
1st stage 怨讐
2nd stage 痙攣
3rd stage 調教
4th stage 猿轡
5th stage 衝撃
6th stage 戦慄
7th stage 永遠
(C)Kaoru Yuki
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1st stage 怨讐
1
リーの構えたオートマチックの銃口は真後ろから
柑
かん
奈
な
の後頭部に狙いを定めていた。
「手を頭の後ろで組むんだ」
口調はゆっくりとしていたが、その
声
こわ
色
いろ
は喉の渇きのせいでわずかに
掠
かす
れていた。
絹子はリーからその前に座る柑奈に視線を移した。
「その人は無関係です。あなたたちの目的は私でしょう。言う通りにしますから、これ以上は柑奈さんに近づかないで下さい」
「黙って言う通りにするんだ」
絹子は諦めて、両手をゆっくりと頭に乗せた。
リーは銃を構えていない方の手で、腰のベルトの後ろから手錠を外し、絹子の前のソファに放り投げた。
「自分で
嵌
は
めろ。まず右手に嵌めたら、頭の上に乗せるんだ」
訝
いぶか
りながら、絹子は手錠に手を伸ばして右の
手
て
頸
くび
に片方の環をかけた。
「後ろをゆっくりと向くんだ。妙な真似はするなよ。その瞬間、この先生の頭がふっ飛ぶことになるぞ」
「何もしませんわ」
絹子は、背後に神経を集中しながら回れ右を行った。
チャンスはまだあるはずだった。が、その後のリーの指示は絹子の予想を完全に
覆
くつがえ
すものだった。
「動くなよ」
釘を刺してから、リーは柑奈に向って命じた。
「さあ、先生。立って、手伝ってやれ」
ソファから静かに腰を上げて、ゆっくりと柑奈が背後に近づいてくる気配がする。もちろん、その柑奈の背中か後頭部には銃口が押し当てられたままでいるに違いない。
「ご、ごめんなさい、絹子さん――」
柑奈の慄える声がすぐ近くで聴こえた。
「いいえ、先生にご迷惑をかけたのはこの私の方ですわ」
「で、でも、私は、あ、あなたを。売ったのよ――」
「余計な口はきくんじゃないっ」
リーの怒声とともに柑奈の肉体の一部を殴打する音が鈍く響いた。
一瞬、絹子はふり向きざま、リーと刺し違える覚悟で跳びかかりたい衝動に見舞われていた。が、本当に衝撃的だったのは、柑奈の口から
迸
ほとばし
り出た。
「うっ、お、お許し下さいっ」
という、およそ有能な女医とは不似合いな女々しい、哀願の悲鳴を耳にした瞬間だった。
「とっとと、言われたことをやるんだ」
「は、は、はい――」
柑奈の手が絹子の
手
て
頸
くび
を掴んで、腰の後ろの位置で手錠を左の手頸にカチリと嵌めた。
「よし。それじゃ、出かけようか。真っすぐに廊下に出てエレベーターで一階に降り、車に乗るんだ。余計な真似をしたら、おまえもこの先生の命もなくなることを忘れるなよ」
リーは未だ警戒を解くことなく、自分に確認させるかのように慎重に言いきかせて出口へと促した。
何か起こってはならないことが、柑奈の内部に起こったのに違いなかった。
絹子は想像を巡らせた。
悲痛な思いはいずれにせよ、
拭
ぬぐ
い難かった。一人の高雅で有能な、医は仁術と心得、絹子が心から信頼し、憧れさえした女医がその面影を失って、今崩壊した姿をそこに
晒
さら
しているのだった。
ワンボックス・カー・タイプのバックシート側にリーとともに乗せられた絹子は、四肢の自由を新たな革製の拘束具によって完全に奪われていた。
車が動き出した。
運転席は見ることができないようになっているが、気配を完璧に殺すことのできる人間でもない限り、ハンドルを握っているのは柑奈に違いなかった。
うっ――と、絹子は小さく声を洩らした。
予想以上の重圧が四肢を襲ったからだった。もっとも、経験のない者にどうして予想ができるだろうか。後ろ手に拘束された手頸と二の腕、さらに膝から深く折られた両脚はペアになった天井からの鎖によって吊り上げられ、車の前後左右の動きによって否応なく負担を掛けられることとなったからだった。
〜〜『[女潜入捜査官]レディ・ドッグ5』(由紀かほる)〜〜
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