一条きらら 密 愛
目 次
1章 蜜夜の人妻
2章 愛戯の部屋
3章 偽りの快楽
4章 熱く悶えて
5章 妖しい誘惑
6章 魅惑の瞬間
7章 危険な情炎
(C)Kirara Ichijo
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1章 蜜夜の人妻
1
夫の帰宅が遅い夜、一人でブランデーを飲むのが、最近の千香の習慣になっていた。
夕食をすませ、テレビのニュースを見てから入浴する。ドレッサーの前で肌の手入れをすると、あとはもう、寝るまで何もやることはなかった。
面白いテレビ番組もなかったし、編み物や本を読む気もしない。ふと思いついて、ブランデーを飲んでみる気になった。
それまでの千香は、アルコールが好きというわけでもなかったし、弱いほうだった。誰かと一緒になら、飲んで楽しい気分になる。
そんな千香が、ほんの気紛れから、一人でアルコールを口にするようになったのだ。
甘口で口当たりのいいブランデーだった。喉の奥に少量を流し込むと、身体がかっと熱くなる。飲み始めて少したつと頭も身体も、ふわふわっとした感じが心地よかった。その何とも言えない浮遊感を、また味わいたくなる。
今夜の千香も、リビングのソファで、ブランデーのグラスを手にしていた。洋画を放映しているテレビをつけてあるが、ぼんやり画面を眺めるだけだった。
(あたし、キッチンドリンカーになっちゃったのかしら)
三杯目のブランデーをグラスに注ぎながら、千香は呟いた。アルコール依存症のように、酒量が増えることはなかった。一日中、飲んでいるわけでもない。
けれども、夫の帰宅の遅い夜には、決まって飲みたくなる。
結婚して三年だった。夫は三十五歳、千香は二十九歳。渋谷区代々木にある分譲マンションに住んでいる。
(妻がキッチンドリンカーになる原因は、夫に対する欲求不満や寂しさ……)
と、週刊誌か何かで読んだのを、思い出す。自分もそうなのだろうかと、ぼんやり考えている時、電話が鳴った。
夜遅く電話がかかることは、めったにない。肉親や友人、知人など、誰かの身に何かあったのではと、今の千香には不安がかすめることもなかった。
ブランデーの酔いが回って、いつもの心地良い浮遊感に包まれているせいだった。
テレビを消し、千香はコーナー・テーブルへゆっくり足を運んで、受話器を手にした。
「はい、松島です」
千香は、壁にもたれかかった。
「もしもし、奥さん?」
聞き慣れない男の声が、低く言った。
「そうですけど、どちらさまですか?」
千香は酔った時の、おっとりした口調になっていた。
「僕、今ズボンとパンツ脱いで、アレ握ってるんだ。アレって、奥さん、わかるだろう?」
男のハアハアという熱っぽい息づかいが、受話口から聞こえた。
(エッチな悪戯電話だわ)
千香は電話を切ろうとしたが、ふと、思いとどまった。何となく、男が淫らなことを言うのを、聞いてみたくなったのである。
下ろしかけた受話器を、ふたたび耳にあてがう。
「奥さん、今、何色のパンティはいてるの? ピンク、それとも、黒?」
淫らな息づかいとともに、男が言った。
(いやらしい……)
そう呟きながらも千香は、電話を切らなかった。ハアハアという男の息づかいに、ふと身体の奥が熱くなる。
千香は左手で、ネグリジェの上から左の乳房をギュッと握り締めた。
もちろん男の淫らな質問に、千香は答えなかった。
見知らぬ男から、何色の下着をつけているのかと質問されて、普通なら生理的嫌悪感で、たちまち電話を切ってしまうだろう。
エッチな悪戯電話が、かかってきたのは初めてではなかった。独身のころも、結婚してからもある。
すぐに電話を切ってしまえば、その後は、かかってこない。
男はデタラメに番号を押して、相手になってくれる女が電話に出るまで、かけまくるのだろう。
今夜の千香が、すぐに電話を切らなかったのは、男の淫らな言葉を聞いてみたい気になったからだ。
ブランデーの酔いが回っているせいかもしれない。夫がまだ帰らず、孤独な夜の妻の、気紛れかもしれなかった。
「奥さんのパンティを、やさしく脱がせて、アソコをいじってやるよ。そっと指を入れて、ヌルヌルの……ね、奥さん、自分の指、入れてみて。ヌルヌルしてる? 濡れてる? 奥さんの、オ……」
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