官能小説販売サイト 一条きらら 『蜜  夜』
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一条きらら   蜜  夜

目 次
1章 人妻の恋
2章 別れの淫戯
3章 悶える肌
4章 魅惑の出会い
5章 愛戯の秘密
6章 果てしない欲望
7章 妖しい疼き
8章 溺れた夜

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   1章 人妻の恋

     1

 どちらが先に、目を覚ますのか。セミ・ダブルのベッドの上で、男と女は、ほとんど同時に眠りから覚めたような身動きをする。毛布と布団の下で、男も女も全裸だった。
 昨夜、眠りに落ちた時は抱き合っていたのに、というように寝返りを打ったり寄り添ったりして互いの裸身に腕をからませてゆく。それが二人の、目覚める時の習慣のようになっていた。
(ゆうべも、この部屋に泊まったんだわ)
 よしおかは、目を閉じたまま男の腕の中で、とろけそうな歓びに包まれる。
「うふッ、お早よう」
 眠気混じりの声で言いながら麻里は男の頬に、頬をすり寄せた。
「お早よう」
 がわとしが、軽いキスをして麻里の脚に、脚をからませる。
「ん……」
 と甘い声を麻里は洩らした。たけり立つ男性器が、秘部に押しつけられたからだ。
「まだ眠い? それとも……」
 したいか、と香川が麻里の白くふくよかな乳房を、左手で押し包むようにして乳首に指先を戯れさせる。麻里は小さく呻き、身体の芯に甘いうずきが走るのを感じた。
「したい……」
 小声で答えて唇を、香川の唇に押しつける。舌と舌が、からみ合う。寝起きの口中の匂いが、朝の欲情をそそるようだった。
(深夜まで、あんなに愛し合ったのに……)
 熟睡した後で、もうこんなに香川の肉体を求めている。何もかもすべて忘れて、彼に抱かれたい欲望だけに支配されてしまう。彼もまた、同じようだった。
(あたしたちには、これしかないみたい……)
 ディープ・キスを続けながら、押しつけ合った下腹部を、もっと密着させたいと悶えるように腰をくねらせる。すると甘美な感覚を欲して肉体が、ふるえそうなほど熱くたかぶってくる。
 朝とは限らなかった。昼の時も、または夕暮れ近く、二人が眠りから覚めた時は、いつもこんなふうになる。ベッドの上で互いの裸体に、四肢をからみつかせ、相手の肌の匂いとぬくもりに欲望をかきたてられずにいられなかった。
(もう、朝じゃないみたい……)
 朝のつもりが、もう正午近かった。冬の弱い陽射しが、窓のブルーのカーテンをほのかに明るませている。クリスマスも終わって、今年もあとわずかだった。
 けれど麻里と香川にとっては、年末年始の慌ただしさなど、関係なかった。外界と遮断した二人きりの世界では、ベッドの上で愛し合うことしか、生きる目的も何もないようだった。
(不倫の恋だから、こんなに求めたくなるのかも……)
 人妻の不倫の恋は、心も身体も夢中にさせてしまうようだった。
 吉岡麻里は結婚して七年目、二十八歳の人妻である。夫と娘と三人で、神奈川の県下で暮らしている。
 夫は年末年始の休暇中、幼稚園児の娘を連れて、彼の生家である札幌へ行っていた。毎年、一家で帰郷する習慣だったが、今年初めて麻里は行かなかった。ひそかに愛し合うようになった香川敏也と、逢いたかったのである。
 夫と娘が帰郷した翌日から、麻里は湘南海岸の近くにある香川敏也のマンションに泊まるようになった。彼との関係は半年たつが、泊まるのは初めてである。妻としての後ろめたさも迷いもあったが、それを忘れさせる不倫の恋に燃えたかった。
 香川敏也は三十二歳で、二年前に離婚している。五年間の結婚生活が破局したのは、彼の妻が精神の病気になったためらしい。彼はアルト・サックスを吹くミュージシャンで、十年近くバンドのリーダーをしていた。ダンス・ホールやナイト・クラブでの演奏の仕事が多いようだった。
 香川敏也のマンションは二階建で、戸数が四つ。静かな住宅街にあり、湘南の海辺まで歩いて行ける。彼の部屋は二階の東側で、間取りは二DKだった。独身者ばかりなのか、マンションの住人同士が顔を合わせることは、ほとんどなかった。
 以前、香川は東京に住んでいたが、離婚後、海辺の住居を選んだらしかった。彼は、未婚の母に生まれ、共に暮らさなかった父は、幼い日に亡くなった。上京して大学に入学したが、母からの仕送りは少なく、奨学金を得て、数々のバイトもしたという。卒業後は、学生時代の仲間たちと一緒にミュージシャンの道を選んだ。
 
 
 
 
〜〜『蜜  夜』(一条きらら)〜〜
 
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