北原双治 人妻密猟
目 次
露出妻
愛のブルーム
オープンハウス
聖淫族
スペース・カップル
淫飾みみずく
蜜欲の報酬
ホットワッフル
流転の囁き
(C)Soji Kitahara
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露出妻
1
〈ん、……どこで着替えて来たんだよ〉
入ってきた妻の真新しいベージュのスーツ姿を見て、白石和人は唖然とした。
いつも、彼女はジーンズにジャケットという軽装で出勤している。薬剤師として私立病院の薬局に勤めており、白衣を着るので平気だと言って、そんなラフなスタイルで出勤していたのだ。
「ごめんなさい、遅くなりまして……。主人がいつもお世話になりまして、ありがとうございます」
「いやいや、堅苦しい挨拶は抜きにして。さ、奥さん座ってください。白石君も待ちわびてましたから、乾杯といきましょう」
深々と頭を下げ挨拶する純恵を制し、教授の若狭盛信がにこやかにグラスを掲げる。
教授夫人の弥生が、淑やかな手付きで洋酒の入ったグラスを、純恵に差し出す。
会釈して受け取った彼女が、彼に愛くるしい瞳を向け微笑む。
〈おまえ、知ってたのかよぉ……〉
スーツに着替えてきたことを、彼に褒めてもらいたいといった感じの誇らしげな妻の笑みを見て、白石は目で訊いた。
純恵の職場へ電話を掛け「若狭教授から、夕食に誘われたんだけど、来れるかい」と、彼女の意向を訊いただけだ。服装のことを注意することなく、仕事が終わったら若狭邸へ直行して欲しいとしか、伝えていない。
その彼女が、スーツに装い弁えた姿で現れている。予め、彼女も教授から話を聞かされていたのかも知れないとおもった。純恵も同じ大学を出ており、若狭教授のゼミに参加していたことがあるのだ。そして、研究室の助手として二人は大学に残ったが、結婚を機に薬剤師の資格を得ていた彼女が退き、就職していた。
そんな経緯があり、若狭教授の教え子でもある彼女が何らかの形で、その日に招かれることを察していたのかも知れない。
そのことを目で訊こうとした彼に、純恵が気付かないといったふうに澄まし顔でグラスを口へ運ぶ。
「こんど、首都大学から講師の推薦を頼まれて、ね。学期の途中なので講師でスタートするが、来春には助教授を保証するという話なんだ。それで、白石君を推薦しようとおもってね。……いかがですかな、純恵さん」
「本当なんですか、助教授だなんて、凄いじゃあない。あなた、……」
「まだ、確定したわけじゃあないよ。他にも、自薦他薦の候補がいるから……」
声を弾ませ振り返った彼女に、白石は諭すように言い口許を引き締めた。
「おいおい、私を見くびらないでくれよ。こう見えても、首都大学に関しては、かなり貢献してるんだよ。わたしが推薦すれば、……決定したも同然だよ。そうでしょう、純恵さん」
渋面をつくり口を尖らせて、生徒が訴えるみたいに若狭盛信が言い、人懐こい笑みを浮かべる。
学生を叱ったり窘めたりするときの、教授得意の仕種だ。それで、咎められた相手もジョークのように受け取り、教授に反感を持たない。つまり、人懐こい笑みを浮かべることによって、窘めた相手を和らげようとしているわけだ。むろん、咎めは本音であり、教授が自信を持って主張しているときに、多く見られる仕種である。
そのことを、弥生も知っているのだろう。
夫を窘めることなく、グラスを手にしたまま穏やかな笑みを浮かべている。
「ええ、若狭先生の推薦なら、完璧ですわ。でも、いろんな手を使う推薦者がいるっていうし、……確定するまで安心できないわね」
「まいりましたなあ、……純恵さんまで、私の力を疑っている。確かに、卑劣な手段を用いて、教授になろうとする輩は大勢いる。このわたしのところにも、人を介して懇願してくる輩がおって、な。この前も、五百万円を用意するって奴が現れたくらいだ。もちろん、即座にお引き取りねがったよ。人生、金だけじゃあない。人物が第一だよ、そうだろう」
「あら、惜しいことしたって悔しがってたじゃあない。ふふっ」
口を挟んだ弥生が、悪戯っぽく微笑む。
教授より十一歳年が離れていると聞いているから、四十歳になったばかりだろう。彼女は国際線のスチュワーデスをしていたときに、教授に見初められ結婚したと聞いている。
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