一条きらら 狙われた未亡人
目 次
犯された蜜肌
濡れ尽くし
快楽の誤算
純真な未亡人
狙われた未亡人
(C)Kirara Ichijo
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犯された蜜肌
1
ドレッサーの前で、着物の着付けを終えたところに、夫が部屋に入ってきた。
「どこへ、出かけるんだい?」
トレーナー姿の輝明が言った。会社の年末年始休暇は今日までで、輝明は家でのんびり過ごす予定らしかった。
「あら、昨日言っておいたはずよ。書道教室の新年会があるって」
三香子は鏡を見ながら上体をひねってみた。オレンジ色の付け下げ小紋に、華やかなゴールドがかったクリーム色の袋帯。その帯を、今日は寿扇という結び方にした。
「ね、あなた、どう? この帯結び、洒落てるでしょ」
「どれどれ、うん、凝った結び方だねえ、時間がかかっただろう」
寿扇という帯結びは、お太鼓結びの変形で、たれ先の部分を屏風だたみにしてひだを作り、お太鼓の下にそのひだを扇のように広げた形だった。
「ふふっ、そうなの。ああ、疲れちゃった」
三香子は和装小物の箱から扇子を出して広げ、ベッドの端に腰を下ろして、丹念にメイクアップした顔を扇いだ。エアコンの暖房は弱めにしてあるが、ふだん着慣れない和服を着ると、顔も身体も熱くなるのだった。
「こんなに着付けに時間がかかるんじゃ、外で脱いだり着たりはできないネ」
冷やかすように笑って、輝明が隣に坐り、三香子の着物の上から下腹部を撫でてきた。
「ま、あなたったら、それ、どういう意味?」
「夫として心配なんだよ、三香子は色っぽくてチャーミングだから、一歩外へ出ると、男の誘惑が多いんじゃないかって」
「うふふっ、無理もないわね、あなたがヤキモチ妬くのも」
扇子を使って三香子はすまして答える。
「とても子持ちに見えないしな。この格好で、お見合いに行くお嬢さんて言っても通じちゃうよ」
「ね、あたしって、ほんとに若く見える? 和服を着ると女ってたいてい老けて見えちゃうけど、あたしはそんなことないわね」
「うん、五つサバ読んで二十六って言っておいたらどうだい、今日会うみんなに」
「きゃっ、うれしい、そうするわ」
「サバ読むのは、いくつだって自由だからな」
「……!」
三香子は夫を、拗ねた眼でにらんだ。パッチリとした大きな目で、少女みたいに可愛いにらみ方に、輝明が思わず苦笑した。
「いや、ホント、三香子は若い、トシ取らない、中年になる三香子なんて想像できないもんな」
「ついでに、その原因を言ったらどうなの、いつもみたいに」
三香子は、拗ね続ける。クックックッと輝明が笑って、三香子の着物の衿に手をすべり込ませようとする。
「だめッ、くずれちゃうから」
三香子は輝明の手を軽く叩いた。
「早く、言ってごらんなさい、いつもの調子で、あたしが若く見える理由を」
「それはさ、おれのザーメンをたっぷりと子宮から吸収してるからさ。男に抱かれて愛されて、女は若さと美貌を保てるってものさ」
「それだけじゃ、ないでしょ」
「だ、だからさ、三香子が、つまり、その……」
輝明は慌ててしどろもどろになっているのではなかった。そのことに拘る三香子がおかしくて、彼は笑いをこらえているのだ。
「あたしが、ノーテンキでアホで極楽トンボだから――そう言いたいんでしょ!」
輝明はもう何度もその表現で、三香子をからかっていた。最初、輝明は、
「バカな女は、たいてい若く見えるものさ」
と呟くように言ったものである。その『バカ』とか『アホ』とか言われて、三香子は怒り、ショックを受けてしまった。
確かに三香子は、数字や計算に弱いし、読めない漢字もたくさんあるし、横文字にも無知だった。高校卒業で、大学も行っていない。極楽トンボの意味さえ知らなかった。
五つ年上の輝明は、有名私大の経済学部卒業で、頭が良くて何でもよく知っている。暗算も早いし、語学力もあって、教養もある。
三香子がそのことで拗ねた時、
「そういう意味のバカっていうんじゃないよ。つまり、賢いとかしっかりしている女性じゃないってことだ。可愛い女ってことだよ」
輝明は弁解するように言い、
「男は、バカで可愛い女が好きなものなんだ」
そうも付け加えた。
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