山口 香 秘唇の迷宮
目 次
第一章 柔肌の夜
第二章 乳白色の天使
第三章 幼稚園の妖精
第四章 人魚と鶯
第五章 人妻は乱蝶
第六章 白衣の悶え
第七章 夜の運動会
第八章 奇妙な記念品
第九章 熟女のクリスマスイブ
第十章 夜明けのマドンナ
(C)Kaoru Yamaguchi
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第一章 柔肌の夜
1
世田谷区成城の高級住宅街の一角に建つ十階建てのマンションの玄関口で、鈴木昇はバイクを停めてマンションを見上げた。
鈴木は白百合銀行成城支店の渉外担当代理である。
朝早くに呼びつけて、こっちにだって一日のコースがあるんだぜ。ああ……頭が痛い。
鈴木は手刀で首の後ろを殴りつけながら、胸のうちで吐き捨てるように言った。
時刻は午前九時。空はスカイブルーで雲一つない。四月下旬ではあるが、直射日光は熱く感じられるほどの陽気であった。
鈴木は鞄を持つとマンションの玄関口に入ってエレベーターホールに向かった。
昨日の午後、このマンションの最上階に住んでいる中町幸江という女性から、
『あすの集金は早めにしていただけません? 出来れば、九時前後にきていただけると助かるんですけど……』
電話が掛かってきたのだった。
彼女は一カ月半ほど前にこのマンションに引っ越してきて、白百合銀行成城支店に口座を開設すると、定期預金の契約をして集金を頼んだのであった。
担当となった鈴木は今回で二度目の集金であった。
エレベーターのドアが開いて、ごみ袋を両手に持った四十四、五歳の太った主婦が出てきて、
「あら、白百合銀行の鈴木さん、あたしのところの集金は終わったばかりですよね」
と話し掛けてきた。鈴木はドアの端を片手で押さえて、
「きょうは別のお客さんのところへお伺いするんです」
と答えた。すると主婦は、
「失礼ですが、お具合でも悪いんですか? 顔色がよくありませんわ」
と言って見つめてきた。
「いいえ、別にどこも悪くありません。奥さま、急ぎますので失礼します」
鈴木はエレベーターに乗ると十階の釦を押しながら、主婦に向かって小さく頭を下げた。
エレベーターのドアが閉まると、鈴木は大きな欠伸を漏らした。
セックスとアルコールによる二日酔いであった。
昨日の夕刻、仕事を終えた鈴木は、部下の男性社員と飲みに出掛けた。小田急線成城学園前駅の近くの居酒屋で盛り上がり、二軒目にカラオケスナックで一気に酔いは深まった。
鈴木は女好きで、下半身に人格なし、の男である。アルコールが身体の中に入ると欲情が突き上げてきて、止まらなくなる体質でもあった。
スナックで流れ解散になった後、鈴木は駅前でタクシーを拾ってソープランドに向かった。
入った店はコスチュームプレイの専門店である、イメージクラブであった。酔っている鈴木は何の抵抗もなく、白衣の天使である看護婦を指名した。
白衣姿で現われた風俗嬢は二十二、三歳の鈴木好みのかわいい娘であった。
『世の中が不況で、就職先がなかったから、イメージ嬢になったの』
彼女の言葉に鈴木は、同情心と好色心を一緒にくすぐられてしまった。
サーッと身体を洗い流してもらって、ベッドに仰向けになって彼女のフェラチオを受けた。アルコールの酔いが興奮を高めて、本物の看護婦に愛されている気分になった鈴木は、白衣の胸許を乱して彼女の豊乳にむしゃぶりついた。
看護婦を犯している気分だな……。
そんな思いに突き上げられながら、後背位の体位で風俗嬢を貫いていった。
一度の射精で店を出れば、セックスの二日酔いも起こらなかったかもしれないが、
『お客さんのものって、女泣かせね。ねえ、延長して、もう一度抱いて……』
彼女に、甘い響きのある口調で言われて身体を擦り寄せられると、ついフラフラとなってしまった。
鈴木は、うな垂れた股間のものに鞭打つようにして二回戦を挑み、白衣を淫らに乱した風俗嬢の身体と戯れた。彼の愛戯を受けた風俗嬢は乱れに乱れて、
『あたし、上からイキたいの』
客を無視して自分勝手に振る舞いながら、女上位のかっこうで鈴木の裸体に馬乗りになって、男のものを胎内に飲みこんでいった。
下半身に人格なし、の鈴木でも連射はきつい。続けて二度の射精でグッタリとなった身体でイメージクラブを出ると、走ってきたタクシーを停めて乗りこみ、自宅の近くまで眠りこんでしまった。
しかし、天の神さまは非情であった。自宅に帰って布団に身体を横たえた直後に、妻が迫ってきた。
『仕事で疲れているんだ、よしてくれよ』
『仕事? 夜に、何の仕事があるの? 浮気臭いわ』
妻はパジャマのズボンの中に手を捩じこんで、鈴木の股間のものに触れてきた。
『お客さんとの付き合いだよ。手を放してくれよ』
『あたしだって生身の女よ。あまり無視をされ続けると、浮気しちゃうわよ』
妻は鈴木を押さえつけるようにして、パジャマのズボンを下ろして下半身を剥き出しにした。そして顔を伏せて、うな垂れた男のものを口に含んで激しく吸いたてながら、幹の部分に手指のしごきを加えた。
ちくしょう、もう、こうなったら破れかぶれだ。
鈴木は胸のうちで毒付くように叫ぶと、彼の意思とは関係なく、股間のものは反応を起こして少しずつ硬直していった。
『ああ……ひさしぶりだわ、あなたのもの……』
妻は家中に響きわたるような叫び声を出して鈴木の身体に馬乗りになると、中年太りのはじまった女体を覆い被せてきたのだった。
『おいおい、子供たちが目を覚ますぞ』
『だって、あああ……』
自分勝手に昇り詰めていく妻を虚ろな目で見上げながら、鈴木は空砲を射ったのだった。
そのために、今朝、妻にたたき起こされた瞬間から、セックスとアルコールによる二日酔いに襲われはじめ、全身が気怠いものに包まれていたのだった。
エレベーターが最上階の十階に着いて、ドアが開いた。
中町幸江の住んでいる部屋は、廊下の奥の角部屋であった。鈴木はまた大きな欠伸を漏らしながら、彼女の部屋の前に向かった。
中町幸江の部屋のドアに表札はない。鈴木はドアの脇のインターホンの釦を押して、室内からの応答を待った。
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