中村嘉子 危険な遊戯
目 次
危険な遊戯
夜がうねる
他人の濡れ場
「桃色」になりたい
ニッキュッパの疼く夜
別れるための夜
欲張りなベッド
猫が来た
バイブが恋人
自慰でおもらし
痴女志願
(C)Yoshiko Nakamura
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危険な遊戯
1
シャープペンシルの芯が切れたので、久しぶりに鉛筆を使ってノートに書いた。
すると、三分と経たないうちに、書くことに嫌気が差してきた。
鉛筆の、その六角形の握り具合が気にくわないのである。
「――たまんないよォ。ほんと、もう、たまんない……!」
誰にともなく訴んで、沙知は、いまいましい六角形の鉛筆を、四行しか書いていない和訳用のノートの上に抛り出した。
別に、“六角形”が嫌いというわけではない。
筆記用具が変わるとノリが悪くなるほど、神経質なタイプでもないつもりだ。いや、むしろ沙知は、高校二年生の少女としては、そういうことをあまり気にしないほうである。
クラスメイトのなかには消しゴムのカスの出具合が“いやらしい”とか、万年筆で書くとノートがにじむとか、その程度の理由で高価な学用品を廃棄してしまう少女たちがたくさんいる。
沙知は、そんな学友を嗤って見ているほうである。
沙知が今、気にくわなくてたまらないのは、実は、鉛筆なんかではなくて、こんなことを毎晩真面目に飽きもせずにしている自分自身の存在なのだ――。
理屈っぽく表現ってしまえば、そういうことである。
が、十七歳の少女の感情は、理屈ではない。生理だ。“生理”が、しきりに苛立ち、騒ぎたてているのである。
「ほんとにほんとにもう……いや……!」
椅子から、沙知は、まるでこれから誰かを殴りにでも行くような剣幕で立ち上がった。
だが、その剣幕の向け場は、どこにもない。
立ったはいいが、結局、オリの中の猛獣みたいに、四畳半の勉強部屋の中をせわしなく歩きまわるだけである。
歩きまわりながら、ブツブツと呟く。モノローグ――などという品のいいものではない。
「――イレルヨ、イイカイ……」
例えば、こう呟く。挿入直前の男は、おそらく相手の女にこう囁くだろう、と想像しながらである。こんなふうに囁かれたい、という沙知の希望も、勿論、入っている。
「アア、イイ……沙知ノココ、スゴクイイヨ……ヨクシマッテ、アア、スゴイ……」
挿入の直後には、こんなふうによがられてもみたい。
「沙知モイイカ? 感ジルカ? オレノモノデ、感ジルカ? ン? ドウダ? 沙知……」
ペニスの抜きさしがはじまったら、こんなふうにいやらしく囁かれるのも悪くないかも知れない。
もっとも、沙知はまだバージンで、男性と手を握り合ったことすらないのである。想像はどこまでも想像であり、妄想であって、過去の体験を思い出しているのとは全然違う。
クラスメイトのエッチな会話や、少女マンガや、ハイティーン向けの雑誌などから仕入れた、知識にだけ頼った、安っぽい妄想にすぎない。
だが、それはそれなりに、あれこれと呟いていれば、感じてこないわけでもない。
パンティの中が、生理を終えてナプキンをはずした直後のようにうすら痒くなってきて、下腹もかすかに疼く。
バージンの沙知が体験し得る、これが唯一最大の性感なのである。
「アア、沙知、スゴクイイヨ……オレ、イキソウ……アアッ、イキソウダ……」
いまにも射精しそうな男の姿を想像すると、下腹が期待通りに疼き、パンティの中のわれめもくすぐったくなってきた。
射精のイメージが、沙知には、今のところいちばん感じるのである。イメージする男の顔や躰は、好きなタレントなどでよかった。
沙知はもっぱら、三上博史のイメージでファックシーンを組み立てている。
「――アアッ、ホントニイッチャウヨ……沙知、アアッ、沙知……イク……イク……ウッ、ウッ……」
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