官能小説販売サイト 山口香 『秘宴の花びら』
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山口 香    秘宴の花びら

目 次
第一章 オフィスワイフ
第二章 ピンク色の妖精
第三章 人妻登山
第四章 喪服の中身
第五章 夏の秘密
第六章 牝猫の黒子
第七章 天使の傷痕
第八章 十九番ホールの誘惑
第九章 巨乳の花園
第十章 熟女警備員の悶え

(C)Kaoru Yamaguchi

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 第一章 オフィスワイフ

     1

 東京都市は、通称多摩ニュータウンと呼ばれている。自然環境を生かした街造りの行なわれている新興住宅地である。きゅう線とけいおう線が乗り入れているながやま駅から多摩センター駅を中心にして、中高層の共同住宅やマンション形式の建物が並んだ住宅群が広がっていた。
 多摩センター駅の駅前周辺は整備化されていて、多摩市立複合文化施設パルテノン多摩に向かうパルテノン大通りと呼ばれているメイン通りの左右には、ホテル、銀行、スーパーマーケットなどの大型店をはじめとして各種の商店街が軒を並べていた。
 多摩センター駅の裏手側にはこっ川と呼ばれる川が流れていて、この川の向こう側にも住宅街が広がり、多摩ニュータウンの整備計画が進められていた。
 乞田川に沿った一角に五階建てのオフィスビルがある。一階と二階がしら銀行の多摩支店であり、三階から五階が賃貸の事務所フロアであった。
 白百合銀行は東京都新宿区にある本社本店をはじめとして、関東近辺に六十数店舗の支店と十数社の関連会社を持っている中堅の都市銀行である。信用金庫から普通銀行に昇格したのが平成元年であり、それ以来、預金高も融資高も順調に伸びていた。
 午前七時三十分。多摩センター駅前の広場にはバスが次々と発着して、通勤通学客が乗り降りしていた。駅口に吸いこまれるように急ぐ人々、駅口から吐き出されるように飛び出してくる者たち。肩をぶつけ合うようにして行き交う人たちでにぎわっていた。
 小田急線から降り立ったすずのぼるは駅前広場の片隅に立って、人々の流れをじっと見つめていた。
 小さいとはいえ、おれもとうとう支店長だ……おまえらを全員、おれの支店の顧客にしてやるからな。いまに見てろよ。
 胸のうちでつぶやいた鈴木は、周囲の通行人が気づいたらきょうがくするような不気味なほくそ笑みを、うつむいて目許に浮かべた。
 神奈川県はら市の農家の次男として生まれた鈴木は、子供のころは餓鬼大将であって勉強は常に留年スレスレの最下位だった。しかし体力だけは、人並みはずれていた。
 大学一年生の秋に、行きつけのスナックのママに女体の味を教えられてから病みつきになって、女漁りに夢中になった。そのために大学生活を一年多く過ごして卒業した。
 将来の夢は何もない。しかし当面は就職して働かなくてはならない。鈴木は二十社近くの入社試験を受けた。その結果一つだけ合格したのが、当時まだ信用金庫だった白百合銀行であった。
 入社した鈴木は、支店をたらい回しにされた。しかし人生楽観主義の彼は盥回しをまったく苦にすることもなく、仕事は適当にこなして、女遊びに明け暮れていた。そんな女遊びの中の一人の相手が現在の妻であった。
 俗に、夜の夫婦生活で男が絶倫だと、生まれてくる子供は女の確率が高い、と言われるが、鈴木の場合はまさにその言葉どおりであった。結婚以来、長女、次女、長男、三女と三年おきに子供が生まれていた。
 鈴木は四十五歳。下半身に人格なし、をモットーとする彼は、まさに男のものにも脂の乗り切った男盛りであった。
 おれの武器は、下半身にぶら下がっているにょ棒だ。いざ出陣となれば天下の宝刀に変わる。
 鈴木はいつもそのように自分自身に言い含めていた。
 そんな鈴木が、本日付けで多摩支店の支店長になった。昨日までは東京都世田谷区のせいじょう支店の渉外担当代理だった。
 白百合銀行の支店の大半は、支店長の下に次長がいて、その次長の下に営業担当、融資担当、渉外担当の三人の代理がいた。三代理の下に幾つかの係があって、それぞれに係長と部下がいるのであった。
 成城支店の渉外担当代理だった鈴木は、数日前に新宿にある本社本店の人事部長から支店長の内示を受けた。
『成城支店よりは規模は小さいが、次長を越えての支店長は珍しい。多摩支店長の過労による退社とはいえ、鈴木くんには過ぎたる人事かもしれんが、がんばってくれ』
 人事部長は、多摩支店長の退社のためと皮肉交じりに言ったが、そんなことは意にも介さない鈴木であった。
 支店長は支店の最高責任者ではあるが、女房役の次長や各担当代理に責任を押しつければいい。実質的に決定権を持っているのは各担当代理と彼らの部下の係長たちである。だからおれは、そんな部下の連中を上手に使って預金高と融資高を伸ばして利益を上げればいいんだ。おれの仕事は外に出て、地域の企業や個人の情報を集めて仕事に結びつけることだ。そのためにはおれは銀行に居座っていないで、どんどん外に出るんだ。そうすればいままで以上に女遊びが出来るぞ。
 人事部長の、皮肉交じりの励ましともさげすみとも取れる言葉を聞きながら、鈴木は胸のうちで呟いていた。
 白百合銀行多摩支店の陣容は男性二十一名、女性十名に加えて年金相談を担当するパートタイマーの女性一名の三十二名であった。
 次長はいながきあきという女性だったな……。
 本社本店の人事部から受け取った多摩支店の組織図を、スーツのポケットから取り出すと、じっと見つめた。
 支店長、次長の下に三人の代理がいる。それぞれの代理の下には何人かの係長がいて部下がいた。
 白百合銀行内の支店における一般的な支店長と次長の出身畑の関係は、支店長が渉外担当の出身であれば次長は融資担当の出身であった。またその逆で、支店長が融資担当上がりであれば、次長は渉外担当上がりであった。
 多摩支店もその例外ではなかった。
 次長、稲垣昭子、の文字が鈴木の目に飛びこんできた。
 稲垣昭子は四十二歳、独身だと鈴木は人事部の行員から聞いていた。
 四十二歳で独身か……おそらく融通のきかない一本気な女だろうな。おれをいじめないでくれよ。
 鈴木の脳裏に、まだ一度も会ったことのない女の顔が浮かんできた。女は眼鏡越しににらむような目付きで見つめてきた。
「さて、少し早いが、行くか」
 鈴木は多摩支店の組織図をスーツのポケットに戻すと、両手でほおをバシッとはたいた。
 多摩センター駅を抜けて裏手にまわって乞田川に沿って歩くと、白百合銀行多摩支店の看板が見えた。一階にはシャッターが下ろされていて、そのシャッターにも白百合銀行多摩支店とかいしょ文字で大書きされていた。
 駅前広場側には大手銀行の支店がいくつもあるが、裏手側には白百合銀行の一店舗だけであった。
 何だか、すぼらしいな。でも弱小銀行だから、しかたがないか……。
 鈴木は白百合銀行多摩支店の前に立って、通りの左右を見つめた。通りの前は電車の高架橋が通りに沿って走っていた。
「失礼ですが……鈴木昇さんではありませんか?」
 近づいてきた女が問い掛けた。スカイブルーのスーツを見事に着こなした、三十代後半と想われる女が目許に笑みを浮かべた。
「あなたは?」
「あたしは、この銀行の……稲垣昭子と申します」
「あなたが次長の稲垣さんですか!? 今度、多摩支店でお世話になることになった鈴木昇です。よろしく」
「早いんですね、支店長は……」
「稲垣さんこそ……いつも八時前に?」
「ええ……日報を見たり、いろいろと」
 オフィスビルの脇に白百合銀行多摩支店の駐車場がある。その駐車場の隅に行員通用口があった。
 稲垣昭子はショルダーバッグから鍵を取り出して通用口の扉を開けた。
 いい女だ。彼女を丸めこむと、仕事が楽になるぞ……。
 鈴木は美人次長の後ろ姿を見つめながら、ニンマリとほくそ笑んだ。


 
 
 
 
〜〜『秘宴の花びら』(山口香)〜〜
 
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