山口 香 熟女の爛宴
目 次
第一章 美女の館の天女
第二章 夜桜天使
第三章 ミスコンの女王
第四章 夜のスイミング教室
第五章 秘書の秘密
第六章 若鮎の乱舞
第七章 巨乳教師
第八章 いたずら好きな子猫
第九章 五人目の人妻
第十章 夢か現実か
(C)Kaoru Yamaguchi
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第一章 美女の館の天女
1
時刻は午後二時を少し過ぎたころ。
東京都多摩市の多摩センター駅の側の白百合銀行多摩支店の二階フロアでは、三人の税理士による確定申告のための税務相談会が行なわれていた。それぞれの相談者のプライバシーを守るために三カ所の相談コーナーは衝立てで仕切られてはいるものの、話し声は漏れていた。
フロアの一角には順番を待つ相談者が緊張した表情でソファ席に腰を下ろしていた。
白百合銀行多摩支店の支店長である鈴木昇は接客の案内係を務めていた。確定申告の相談にきたお客に順番カードを渡したり、空いた相談窓口に案内したりしていた。
その時、一階の営業窓口フロアの階段から営業事務担当の女性社員が上がってきて、
「鈴木支店長、下でお客さまがお待ちになっていらっしゃいます。わたくしが代わりますので、おねがいします」
税務相談にやってきている客を意識するように細い声で言った。
「どなたが見えているんだ?」
「飛田エステティックサロンの社長、飛田亜由子さまです。応接室でお待ちです」
「そうか……じゃあ後をたのむぞ」
鈴木は女性社員に税務相談の客の案内を任せてから、一階営業窓口フロアに降りて行った。
白百合銀行は東京都新宿区に本社本店を構えていて、関東地方を中心にして六十数店舗の支店と十数社の関連会社を持っている中堅どころの都市銀行である。信用金庫から普通銀行に昇格したのが平成元年であり、それ以来預金高も融資高も順調に伸びていた。
多摩支店の営業内容は、預金獲得高が約百五十億円、融資高が約八十億円であった。
白百合銀行多摩支店の社員は男性二十一名、女性十名に加えて年金相談を担当するパートタイマーの女性一名の、総勢三十二名であった。支店長である鈴木の下に、次長一名とその下に営業事務担当と融資担当と渉外担当の三人の代理がいた。それぞれの代理の下には何人かの係長がいて部下がいた。
一階営業窓口フロアに降りた鈴木は、窓口の順番を待ちながらソファ席に腰を下ろしている客に視線を走らせながら、支店長席の斜め後ろの応接室に向かった。
ドアを軽くノックしてから開けると、
「お待たせいたしました。いつもお世話になっております」
「お忙しいところを申し訳ございません」
ミニ応接セットのソファ席に腰を下ろしていた女性が、ゆっくりと立ち上がって鈴木のほうを向いた。
女性は多摩センター駅の駅前広場の一角にあるホテルビルの一階でエステティックサロンを経営している飛田亜由子であった。四十歳代半ばのスラリとした美人であり、白いブラウスとワインレッドのスーツを見事に着こなしていた。
何時見てもいい女だな……たしか独身だとか言っていたな。
「どうぞどうぞ……お掛けください」
鈴木が向かい側のソファ席に腰を下ろすと、飛田亜由子もふたたび座り直した。
背筋を伸ばして浅く腰を下ろした彼女は両脚を斜めにして、タイトスカートの裾を引っ張って膝頭を隠すようにしてから、その上で両手を重ね合わせた。細く白い手指の爪に塗ってあるマニキュアもスーツの色に合わせてワインレッドであった。
営業事務担当の女性社員がお茶の用意をして持ってくると、鈴木は飛田亜由子に勧めてから自分も湯呑み茶碗を口元に運んだ。
「実は、少し融資をおねがいしたいと思いまして……融資担当代理さんがいらっしゃらなかったもので、支店長の鈴木さんにおねがいしてみようと思いまして……」
亜由子は両手で湯呑み茶碗をそっと取り上げて柔らかそうな口元に運びながら、上目遣いに鈴木を見つめた。
彼女のうっすらとウエーブの掛かったセミロングの黒髪は艶光りし、卵型の白い顔は目鼻立ちが整って化粧映えしていた。二重瞼の切れ長な目は澄み切って、熟女の色香と気品をただよわせていた。
「飛田さんのところは実績がありますから、何時でもご融資させていただきますよ。以前にも融資させていただいたことがありますよね?」
「ええ……十年前に一度……でも五、六年前にすべてお返しいたしましたわ」
「そうですか……それなら何の問題もありません」
「そのようにおっしゃっていただいて助かりますわ。お断わりされたら、定期預金と普通口座を解約しようと考えていましたの」
「こちらとしても、それはこまりますよ」
亜由子の顔から下半身に視線を這わせた鈴木の目が、一瞬彼女の膝頭のところで止まった。円やかな両膝とタイトスカートが作り出している逆三角形の小さな陰が鈴木の好色心をくすぐった。彼はあわてて飛田亜由子の顔に視線を戻した。
「他の銀行は手続きがうるさくて……鈴木さんのところの白百合銀行は、わたしども庶民には気楽にご相談が出来る銀行で大変助かりますわ」
おいおい、そんなにおれをうれしがらせても何億円とは融資出来ないぞ……融資を口実に誘ってみたいな。
好色心をくすぐられている鈴木は、胸のうちで呟きながら湯呑み茶碗を口元に運んだ。
「失礼ですが何にお使いになるのですか?」
「サロンを少し改装したいと考えていますの……それに新しい機械も導入したいと思っていますので……」
多摩センター駅の近辺には大手銀行の支店がいくつもあって、顧客の奪い合いに近い商戦を繰り返している。飛田亜由子が経営する飛田エステティックサロンも、いくつかの銀行と取引をしているのは、すでに白百合銀行多摩支店としても調査済みであった。他の銀行に顧客を取られてはならない。そのためには何としても彼女の融資話をまとめなくてはならない。
白百合銀行の各支店では、店舗規模の大きさに応じてではあるが、一企業一個人に対して五千万円から一億円までの融資限度枠があり、多摩支店の場合は七千万円前後だった。その決済権は当然だが支店長にあるが、それ以上の金額になると本社を通し、本社の審査を受けるシステムになっている。だが、支店長としての鈴木は多少の金額の上乗せは信用のおける顧客には進んで融資をするつもりであったし、これまでも実行してきたし、本社からは何の問題も伝えてはこなかった。
「手続きをしていただければ、すぐにご融資させていただきますよ。大体どのくらいの金額をご用意すればよろしいでしょうか?」
「まだ、改装業者のはっきりした見積書は出ていませんが、こちらの勝手な想像では、七千万円前後だと考えていますが……」
「七千万円ですね……」
おれの決済額の範囲だから問題はないな。
「おねがい、出来ます?」
飛田亜由子は、上半身を少しだけ斜めにしながら甘い響きのある声で言った。
「分かりました。融資担当代理に申しつけておきましょう。金額がはっきりしましたら、すぐに手続きに入りましょう。ところで飛田さん、一度、軽いお食事でもどうですか? これからもお世話になりながら大切な顧客さまとして、お付き合いをおねがいしたいと考えていますので……」
誘って断わられても、もともとである。誘いの言葉を投げ掛けなければ男と女の関係は前進しない。
そのように思った時には、鈴木の口から条件反射的に誘いの言葉が飛び出していた。
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