一条きらら 激しいのが好き
目 次
第1話 シングルズ・バーで会った男
第2話 立ち飲みバー・ナンパ
第3話 誘惑の熱い夜
第4話 変態愛撫に夢中
第5話 サイバーセックス体験
第6話 こんなに恋しい男性器
第7話 激しいのが好き
(C)Kirara Ichijo
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第1話 シングルズ・バーで会った男
1
ベッドの上で、あお向けになった千紗は、ふうっと息を吐いた。
花柄ネグリジェの胸元をはだけ、その裾を腰まで、たくし上げた姿勢である。
体中が熱く、乳房が上下に波打っていた。
部屋の明かりも、スタンドの灯も消してあり、薄闇に包まれた寝室である。
隣のベッドで、夫がイビキをかいて眠り込んでいる。
夫婦のセックスの後では、なかった。
夫が眠っている深夜、孤独なオナニーをする。それが、最近の千紗の、習慣になっていた。
片手で乳房を握り締め、もう片手をパンティの中に入れて、夢中で指を動かす。
甘美な性感が上昇しきって、エクスタシーがおとずれる。
ハアハアと喘ぎながら、ぐったり四肢を投げ出して、ふうっと熱い息を吐く――。
終わってみれば、虚しいだけのオナニーだった。
(自分の指でエクスタシーになったって、満たされないわ……)
(セックスみたいに、体の芯をとろかすような快感のうねりも、噴きあがる陶酔感もない……)
(夫がいるのに、オナニーしなくちゃならない不幸な妻……)
いつものように、そんな想いが湧く。
イビキをかいて気持ち良さそうに寝ている夫の横顔へ、千紗はチラッと眼をやった。
(ベッドで妻を満足させられない夫なんて)
夫じゃないわ、男じゃないわ、ただの同居人よと言いたくなる。
明日は土曜で、夫の会社は休みだから、今夜こそと期待して千紗はベッドに入ったのだ。
けれど、夫は、
「ああ、疲れた、神経も疲れた、体も疲れた、今日も疲れ果てた一日だった」
と、まるで予防線を張るようなことを言って、ベッドに倒れ込むと、たちまち寝息をたてて眠り込んでしまった。
その寝息が、イビキに変わるころ、千紗は薄闇の中でパッチリ目を開け、今夜も眠れない長い夜が始まると、憂うつだった。
千紗は三十七歳、夫は四十四歳。
結婚して十一年。一人息子が小学五年生。
息子に手がかかるころは、千紗も夜になると疲れきって、ベッドに入るなり睡魔に襲われることが多かった。
そんな時でも、夫から体を求められれば、それが愛情表現のように思えて、うれしかったし、眠気が遠のいてセックスに夢中になった。
それなのに――。
最近は千紗が、甘えてセックスを求めても、夫は「疲れた」とか「眠い」とか「今夜はカンベン」とか「明日しよう、明日」などと眠そうな声で呟きながら、寝てしまう。
完全なセックスレスというわけではないが、四十代の男性が、月に一度か二度のセックスで満足なのだろうか。
その内容も、所要時間が十分ぐらいという短さであり、淡泊さだった。
セックスとは、とても言えない行為で、千紗がエクスタシーにならなくても、
「ごめん。今度、時間がある時、埋め合わせするから」
と、目覚まし時計へ眼をやり、こんな時間かと慌てたようにパジャマを着て、布団をかけ寝てしまう。
浮気をしているのではないかと、疑ってもみた。
帰宅した後の、夫の服や下着を調べたり、携帯電話の履歴をチェックしても、浮気をしている様子はなかった。
(メタボ体型じゃ、浮気してくれる女性なんて、いないわよね)
クスッと笑って、千紗は浮気チェックをやめた。
サラリーマンの夫は、酒好きで、健啖家で、メタボで、高イビキの、典型的な中年体型である。
「あなた、無呼吸症候群じゃない?」
いつか、朝食の時、千紗は脅すように言ったことがある。
「無呼吸症候群?」
夫が、驚いた顔つきで聞き返した。
「聞いたこと、あるでしょう? 無呼吸症候群て」
「ああ。本当に、おれの呼吸、止まってたか」
「一晩中、聞いてたわけじゃないけど。一時間ぐらい寝つけなかった時、あなたのイビキが何度も止まったみたい。ううん、イビキが止まって、寝息になったのかもしれないけど」
「一時間も、夜中に目が覚めてるのか」
夫が驚いたように、千紗の顔を見た。
「そうよ、眠れないんですもの」
「どうして?」
「眠れるようなこと、あなたが、して下さらないからです」
澄ました顔で、千紗は答えた。
「何だ、別に悩みごとってわけじゃないのか」
夫の安堵した顔つきが、シャクになる。
「いいえ。眠れない原因が、悩みです。解決できるのは、あなたしかいないと思うんですけど」
「それは、また今度、時間的にも体力的にも余裕のある時にしよう、うん」
夫がニヤリとして、自分の言葉に自分で、うなずく。
「ね、あなた、夫が眠っている隣で、オナニーする妻って、少なくないんですって。女性週刊誌で読んだわ」
千紗は、上目づかいにチラッと、夫の顔を見た。
(その妻の一人が、わたしなのよ)
内心、呟く。
ところが、夫は、顔を輝かせたのである。
「それは、いいことじゃないか。美容と健康にいいよ。性の欲望を発散してないと、女性は肌が荒れたり、老け込むって、スナックのママが言ってたな。だから千紗も、悶々として眠れない時は、おれとカー・セックスでもやる空想しながら、自分の指でコチョコチョ……そうだ、バイブレーター買って来てやろうか。クククッ、こんな話してたら、股間が熱くなってきたよ」
「ンもう、あなたったら。朝からイヤラシイ人ね」
千紗もつられて笑ったものの、股間を熱くするのは夜でしょうと言いたかった。
パワフルな精力は衰えたようだが、エッチな冗談をよく口にする夫を、ニクメナイ気もしていた。
けれど――。
セックスは愛情表現。愛があれば性の欲望を感じるのが自然なのだ。
(夫は、わたしを、もう愛してないのか、まだ愛してるのか、わからないわ……)
ネグリジェの胸のボタンを留めながら、千紗は、ため息をついた。
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