官能小説販売サイト 一条きらら 『蜜の肌』
おとなの本屋・さん


一条きらら   蜜の肌

目 次
第1話 不倫の終止符
第2話 美肌の秘密
第3話 あなたと熱い夜を
第4話 妖しい夜
第5話 蜜の肌

(C)Kirara Ichijo

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 第1話 不倫の終止符

     1

 今夜は夫が身体を求めてくる――。
 その予想は当たっていた。
 入浴をすませた由希子が、ネグリジェ姿でドレッサーの前に座った時、夫の清志はベッドに腹這いになって雑誌を広げていた。
 その雑誌が少年漫画だと、見なくても由希子にはわかっている。
 三十五歳になるサラリーマンの清志が、今でも時々、少年漫画雑誌を読むのである。由希子には夫が、三つ年上であるとは思えない時があった。夫の精神年齢の低さ、幼稚さが、わかってきたのは結婚して間もなくだった。
 ドレッサーの前で肌の手入れをすませると、洗面所へ行って手についたクリームをゆっくりと洗い落とし、ゆっくりとタオルを使った。そして、ゆっくりとした足取りで、寝室に戻る。
 今夜は夫が求めてくる。抱かれたくないからと、動作が緩やかになるわけではなかった。今日一日の動作のほとんどが、そうだった。食事や後片づけの時も、洗濯と掃除の時も、入浴の時もである。
 明日を迎えたくないという心理のせいだと、自分で気づいている。今日という日が、終わって欲しくないのだ。
 寝室に戻ると、部屋の明かりは消してあり、二つのベッドの間にあるスタンドが、淡い灯を投げかけている。
「おいでよ」
 と、清志が雑誌を投げ出し、あお向けになって体を右寄りにずらせた。
 予想どおりだったと、由希子は小さく笑いながら、夫のベッドに体をすべり込ませた。約一週間ぶりに、清志の腕に抱かれた心地好さに包まれる。
「明日から当分、禁欲だからな」
 清志が由希子の胸のふくらみをまさぐりながら言った。
 その言葉に、由希子の心は冷えていく。明日から夫の会社は、十日間の年末年始の休暇に入る。夏休みと冬休みに夫の実家へ帰省するのが、結婚して二年の習慣だった。
 由希子の実家は都下にあり、時々、土曜か日曜に夫婦で顔を見せに行く。
「どうしたんだ、気が進まないのか」
 スタンドの淡い灯の下でも、由希子の憂鬱そうな表情は、夫の眼に映る。
「わたしの実家へ行くより、いろいろと気をつかわなくちゃならないし」
「気をつかうなんてこと、考えなくたっていいよ。親父もおふくろも、いちいち細かいこと由希子に言ったりしないだろう?」
「ええ……」
 夫には、説明してもわからない。嫁と姑の対立。それは、第三者の眼には、対立と映らない。不和とか不仲とかいった雰囲気さえ、誰も感じ取らないだろう。
 それでいて、対立、反発、嫌悪、敵意、嫉妬が、夫の母と由希子の間に、ずっとあるのだった。
 そんな感情を、由希子が持ち始めたのは、
 ――清志さんて、マザコンなんだわ――
 そう気づいた時からである。
 と言っても、同居しているわけではないし、世間で聞くような異常なマザコンぶりを、清志が発揮するわけではなかった。
 三十五歳の男のマザコン性格は、母親の育て方に責任があると由希子は思っていた。
(お母さんが、清志さんをマザコンにしたんだわ)
 義母に対して、憎しみに近い感情を持った。
 結婚して、夫が入っている生命保険金の受取人を、母から妻に変えて欲しいと言った時、清志はもう一件契約して由希子を受取人にすると主張した。
 マンションや車のローンもあるし、保険料が負担になると言っても、清志は主張を変えなかった。
 夫の留守に、整理整頓をしていた由希子は、独身の清志に宛てた母からのおびただしい手紙を見つけて驚いた。
 清志が家を離れて東京の大学に通うようになったころから、社会人になり結婚する前まで、月に三、四度も送られた手紙である。
 まるで書道家のように達筆で流麗な文字。それは息子に宛てて書いたというより、恋人に宛てたラブレターのような文章だった。
 その時、由希子は、愕然としたような感情に包まれた。
 母親から電話がかかってくると、うれしそうに出る清志。休暇に入ったとたん、帰省のなつかしさというより母親に会える喜びを隠せない清志。久しぶりに会った母との語らい。その時の表情や態度は、母と息子というより、恋人同士のように、由希子の眼には映る。
 数えあげれば、きりがないほど、夫のマザコン性格は明らかだった。
 けれども、結婚前は全く気づかなかったのである――。
「ね、のんびりして来ようよ。家の手伝いなんか、何もしなくていいからさ」
 機嫌を取るように清志が言い、由希子のネグリジェの胸のボタンをはずした。
 あらわになった由希子の乳房に、清志が顔を埋めた。
「ああ……」
 由希子は甘く呻き、清志の頭を抱きかかえるようにした。六日ぶりに触れられる体が、敏感になっているのを感じる。乳首を吸われて甘美な性感が湧き起こり、左右の太腿を、すり合わさずにいられなくなる。
 夫のマザコン性格や、精神年齢の低さを感じていても、かつては恋愛して夢中になった男だった。メンクイの由希子は、清志の端整で甘い顔立ちに一目惚れした。お坊ちゃん的な気弱さが少し気にかかったが、性格的にも合うと信じた。
 結婚前の一年間、肉体関係もあったし、今でも清志に抱かれて体は燃えてくる。
 ただ、燃えてはくるが、最近は燃焼しきれないし、最高の歓喜は得られないとわかっている。
 由希子の肉体は他の男に抱かれて、本物の歓びを知ってしまったからだった。
 燃焼することもなく、本物の歓喜をもたらされなくても、馴染んだ夫の体とセックスを由希子は好きなのだった。
 大半の妻は、夫以外の男のセックスに夢中になると、夫に抱かれたくなくなるというが、由希子は愛する男に抱かれるのも好き、夫とのセックスもまた好きなのだった。貪欲な体なのかもしれなかった。
「ヌルヌルが出てきた」
 と、乳首に、唇を触れさせたまま清志が由希子のパンティの中に手を入れて、秘部をまさぐった。そこが濡れていると、もう重なってくるというのが、清志のワンパターンのやり方だった。
 清志がパジャマのズボンとトランクスを脱ぐ間、由希子もネグリジェを脱ぎ、パンティをたぐり下ろして足首から抜き取った。
 重なってこようとする清志に、由希子は手を伸ばして彼の股間のものをやさしく握った。
「ねえ、触りたい、愛撫したい、すぐに終わっちゃイヤだわ」
「すぐに終わるなんて、侮辱だな」
「ふふ、ごめんなさい」
 つい、本心を洩らしてしまった。決して早漏というわけではないが、結合してから清志はもう夢中で、性感の波の線がスピーディで単調な感じだった。
 変化があったりする持続的な動きは、できなかった。甘美な性感が熱く盛り上がるようにして由希子の肉体を、熱く激しく揺さぶってくるという爆発的なエクスタシーは、清志とのセックスではおとずれない。
 そのことを知ってしまった由希子の秘密が、つい、チラッと洩れてしまったのだ。
「当分、禁欲ってことになるからな。今夜はたっぷりと、いやらしいことして楽しもうか」
 と、清志が由希子の体に重なるのをやめて横向きになり、秘部に手を伸ばしてきた。
「いやらしい、いじりっこだ」
「ふふふ」
「早く入れて入れてって、ヌルヌルがいっぱい出てきたぞ」
「あなただって、もう硬くなって……ああ」
 手に彼の膨張したペニスを握っている。それでいて、清志の指が、花芯の中へペニスのような動きをくり返す。
 甘美な性感がこみあげ、由希子は悶えるように腰をくねらさずにいられなくなった。
 彼のペニスを握った手を、小さく動かし続ける。
「う……そんなにしごくと、お手々の中に出しちゃうぞ」
 息を乱して清志が、由希子をあお向けにさせ、慌ただしく挿入を始めた。
(あのひとだったら、もっともっとわたしを、狂おしくさせてから……)
 脳裡に、他の男の顔が一瞬、浮かんだ。彼の体臭を、愛撫を、淫らな囁きを、蘇らせて由希子は恋しくてたまらなくなる。
(抱かれたい……!)
 夫の体の下で、由希子は他の男への欲望に悶えた。


 
 
 
 
〜〜『蜜の肌』(一条きらら)〜〜
 
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